2013/08/20

図書館はAWSの夢をみるか

最近目にしたブログ・エントリに、「コンピュータの仕事がしたい人」が図書館に来るのは、図書館にとって幸せなことか?」というのがありました。

http://yuki-chika.hatenadiary.jp/entry/2013/08/12/230340

簡単に言ってしまうと、図書館に勤務しながら、OSS開発をして(図書館系のOSSソフトの開発をして)、"活躍"している人がいる。それは、本人および組織にとって素晴らしいことなのかどうか、という話。Systems Engineer (SE) じゃなくて、Systems Librarian (SL?) という言葉があるんだそうです。

実はこの命題って、人の側から見ると比較的典型的な問いで、系として
  • 「コンピュータの仕事がしたい人が、ITゼネコンと揶揄されるような大手ベンダで外注管理にいそしむのは幸せなことか?」とか、
  • 「コンピュータの仕事がしたい人が、銀行のIT子会社でCOBOLシステムの保守をしながら親会社の人間から見下されるのは幸せなことか?」、
  • はたまた、「コンピュータの仕事がしたい人が、ITベンチャーとは名ばかりのブラック企業で受託開発に汗を流すのは幸せなことか?」
とかいうのが、数多く思いついてしまうわけです。

結局のところ、「人それぞれだけど、図書館の中心価値はITシステムにはないから、気をつけないと傍流というか、微妙な立ち位置になっちゃうかも」「コンピュータが好きな人は、可能ならITがメインストリームになるような組織に入るのが望ましい」「組織に入るのであれば、"お前ここで何やってんの"と言われないようにしなさい」という、あったりまえの人生相談になってしまうわけですが…。

ただ、この話は図書館サイドから見ると、よくある飲み屋談義と少し変わったかたちに見えるのかもしれない、という気がします。
人を受け入れる側から見た構図で考えて、「コンピュータの仕事がしたい人が図書館じゃなくて本屋、つまりアマゾン、もう一声広げてAWSに携わったら、幸せなんだろうか」という補助線を引いてみると、「そりゃ、きっと双方にとって幸せなんじゃない。それがまさに仕事なんだから」という話になるような気がするのです(もちろん、現実問題として本人の能力が足りるかどうかとか、外資に行くのが幸せかどうか、というのはありますが、これはまた別の話です)。
そう考えると、結局のところ、「図書館はアマゾンになれなかった(あるいはなりそこなった)」「だから、IT系の人が"来ると幸せか"なんていう悩みを抱えることになるのさ」というところに、この話は落着してしまうのかしら(少なくとも、図書館側から眺めると)。

もし図書館にジェフ・ベゾスがいれば、件の彼は、もっと胸を張って、その「IT仕事」ができたんではないか。というか、周囲からそれは幸せなことか、などと素っ頓狂な心配をされる必要はなかったはずです。

「いやいや、ちょっとまて、図書館は営利企業じゃないし、ジェフ・ベゾスみたいな守銭奴と一緒にしないでくれ。僕たちは、図書館百年の計の下でより長期的な活動をしないといけないのだ」?
まあ、そうかもしれないけど、でも、本来、図書館って「本の集積される場所」だったはずですよね。ビジョンとしては。それはアマゾンも(物理アイテムを売りつつも)同じことで、ジェフ・ベゾスはそこにある種の未来的なビジョンを見出し得たけど、図書館の人はそうはしなかった、ということなんじゃないでしょうか。だいたい、たかが電子本屋がクラウドサービス、っていう時点でかなり吹っ飛んでる気がするわけで、素直に考えれば図書館がパブリック(公共)クラウドを提供していたって、論理的には全然おかしくないわけですよね、というかむしろそれが普通の発想です(*1)。

もちろん、現実的に図書館がAWSになれたか、というとそんな気は、全然しません。
でも、情報が集まる、というのは図書館の本質で、本当は図書館がその役目を果たしてもよかった、あるいは、果たさないといけなかったんじゃないだろうか、とか妄想してしまいますが。

なんで、できなかったんだろう… (*2)。

*1 昔のSFにはそういうの、よくありましたよね。図書館とは言わなくても、国家・公共セクタがコンピュータ・クラウド風のシステムを独占してるような話。まあ大体は自我に目覚めて人類に反乱しちゃうわけですけど。逆に「本屋がクラウドベンダーになってる世界」を書いたSFは読んだ覚えがありませんけど、ひょっとしてディックあたりならそういうの書いていたりするのかしら。それぐらい変な話ですよね。本屋がクラウドって。

*2 やっぱり、ジェフ・ベゾスは歴史の特異点だったということでしょうか。
ジェフ・ベゾスは、図書館クラウドが人間を支配する世界からタイムトラベルでやってきて、そして人類を救うために、アマゾンを設立したのだ!的な。それってなんてターミネーター。

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